6月1日[土]公開『希望の灯り』

希望の灯り公式サイト

1989年ベルリンの壁崩壊、1990年東西再統一。置き去りにされた人たちの哀しみを、スーパーマーケットの灯りが優しく包む。慎ましく幸せな物語。

腕や首の後ろにタトゥーを入れた無口な青年クリスティアンは、巨大スーパーマーケットの在庫管理係として働き始める。旧東ドイツ、ライプツィヒ近郊。店の周囲には畑地が一面に広がり、遠くにアウトバーンを走る車が見える。仕事を教えてくれる中年男性ブルーノはクリスティアンを言葉少なに見守る。年上の魅力的な女性マリオンへの一途な思いは、恋の喜びと苦しみを教えてくれる。ここで働く者たちは、みな、素朴で、ちょっと風変わりで、心優しい。それぞれに心の痛みを抱えるからこそ、たがいに立ち入り過ぎない節度がある。それが、後半に起きる悲しい出来事の遠因になったのかもしれないが、彼らは喪失の悲しみを静かに受けとめ、つましく生きていくのだ。いま目の前にある小さな幸せに喜びを見出すことで日々の生活にそっと灯りをともす。そんな彼らの生きる姿勢が、深い共感と感動を呼びおこし、静かな波のざわめきのように深い余韻を残す。
トーマス・ステューバー監督は、1981年、旧東ドイツのライプツィヒ生まれ。本作は、クレメンス・マイヤー(1977年、旧東ドイツ・ハレ生まれ)の短編小説「通路にて」を映画化したものだ。2人は、マイヤーの短編「犬と馬のこと」をステューバーが2012年に中編作品に映画化して以来タッグを組み、ステューバーの初長編映画『ヘビー級の心』(15/Netflixにて配信)では共同で脚本を執筆。本作も2人の共同脚本作であり、マイヤーはマリオンの夫役で出演もはたしている。ベルリンの壁崩壊に続く1990年のドイツ再統一によって、旧東ドイツ人のなかには不遇をかこつ人々もいた。社会の片隅で助けあう人々の日常を静かに描き出す本作は、人と人との距離感という意味でも、フィンランドの名匠アキ・カウリスマキ作品に通じるものがある。「美しく青きドナウ」や「G線上のアリア」などクラシックの名曲の効果的な使い方や、カナダのゴシックフォーク・グループ、ティンバー・ティンバーの「Moments」をエンディング曲に選ぶなど、音楽センスも抜群だ。

★第68回ドイツアカデミー賞主演男優賞(フランツ・ロゴフスキ)★
監督・脚本:トーマス・ステューバー
原作・脚本・出演:クレメンス・マイヤー(「通路にて」新潮クレスト・ブックス『夜と灯りと』所収<品切>)
出演:フランツ・ロゴフスキ、ザンドラ・ヒュラー、ペーター・クルト
ドイツ/125分